ハロウィンは、もともとはイギリス・ケルト地方で収穫の時期を終えた10月31日を1年の終わりとして、新年を迎える前の厄払いのような感じで続けられていたお祭りです。悪霊を寄せ付けないよう、怖い恰好をして町内を練り歩いていたんだそうです。スピルバーグの映画「E.T.」の大ヒットによって、日本でもハロウィンのお祭りが広く知られるようになり、いつしか日本の季節行事の一つにも成っているようですね。
乳児期は母性のステージ。子どもの身体的発達だけじゃなく心理的発達を担うのも圧倒的に母親です。乳児期前期を生きる子どもにとって母親は一体的な存在で、別の個体である意識さえあやふやです。それが乳児期後期、母親と別個体であることに気付けるようになり、母親との分離に不安を強めて“人見知り”が始まります。母親以外の人に抱かれて“ママじゃない”認識を明確にしつつ、身に付けている数少ない“泣く”という手段を用いて母親の腕の中に戻り、一体化(固体化)することで心に渦巻く不安を解消しようと試みる、これが“人見知り”の正体です。
ところで、父性の出番は、まだまだ先になりますが、自他境界の認識があやふやだった乳児期前期の間に積み重ねられた、父親に抱っこされてきた記憶と経験によって、父親は母親に次ぐ最も安心できる存在で、家族以外の人に比べ“人見知り”はそう長くは続きません。が、早朝から夜遅くまで働くサンデーパパ(ほぼ日曜日しか子どもと顔を合わせない父親。高度成長期には普通でしたが、今時はいないかもしれませんね…特に今のコロナ禍では…)や、出張・単身赴任等で不在がちな父親の場合には、『俺、嫌われてるのかなぁ…』と、自信を失った経験を持つ人も少なくないのかもしれません。しかし、乳児は母親を中心にして世界を見ているので、“人見知り”から泣かれたとしても無理からぬこと。それも、子どもの成長の証です。
お父さん、ここでメゲてはいけません。たとえ離れている時間が長くても、『お父さんは、実はお母さんと一心同体なのかもしれない…』と思わせてしまえば良いのです。お母さんがお父さんに安心・信頼しきっている姿を見聞きさせることで、子どもは、『お母さんじゃなくても、お父さんに固体化(依存)すればいいんだ』と思うようになり、お父さんの抱っこでも不安を解消できるようになっていきます。但し、この時のお父さんの関わり方は、お母さんを真似た母性に徹する必要があります。母性は母親の専売特許ではないし、父性もまた父親の専売特許でもありません。父親にも母性は持てるし、母親にも父性は持てるんです。(詳しくは後の回で…)
話を元に戻しましょう。実は、生後6~10ヶ月の乳児期後期は、ハイハイを獲得し、自分の意思で体を移動させられるようになることから、冒険を始める「探索期」の入り口、ドキドキ・ハラハラを楽しめるようになっている時期に重なります。
これより少し前。私たちが必ずと言ってよいほどする遊びの中に、「いないいないばぁ」があります。初めて我が子にそれをした時の反応を、覚えておいででしょうか?
およそ、子どもの反応としては「いないいな~い」と目の前をふさがれて、瞬間にお母さんが見えなくなった驚きと不安を表情に浮かべ、泣き出してしまったなんて思い出をお持ちの方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
親にすれば、我が子のどんな表情も愛くるしくてたまらないんですが、当の子どもには、目の前のお母さんが何故突然に消えたのか理解できません。混乱し、初めて経験する不安に戸惑い、恐怖にさえ感じてしまう子どももいます。そういう意味では、子どもにとっての初めての「いないいないばぁ」は、なんとも過酷な状況であるとも言えます。しかし、その不安は数秒後に、「ばぁ~!」で解消されることとなります。ここで子どもは『お母さんが消えていなくなってしまった訳じゃない』ことを学習すると同時に、心理的緊張と弛緩(ドキドキ&ホッと)を遊びとして楽しめるんだということも学びます。
最初の頃は、大人にされるがままですが、やがて状況理解が進んでくると「いないいな~い」の手を振りほどいて、手の向こう側のお母さんを確かめるようになります。そうやって迎えた生後6ヶ月以降、子どもはやや平面的(2D)だった「いないいないばぁ」遊び[受動]を、空間的(3D)に体を使って確かめたい野心[能動]に駆られるようになります。いわゆる「探索行動」の始まりです。
ハイハイをして、ほんの少しお母さんから離れてみる。オシッコちびっちゃいそうなくらいドキドキします。そして振り返り、お母さんがいることを目視で確認。慌てて戻り、お母さんの膝に抱きついて、触れながらその存在の確かさを確認し、同時に温もりを感じます。そして心臓のバクバクが収まるのを待ち、『あぁ、怖かった…。でも、もう安心…』と心理的緊張と弛緩(脱力)を全力・全身で体感します。
やってみると、もうスリル(ドキドキ)感がたまりません。初めて「いないいないばぁ」をされたときと同じくらいの刺激に、子どもは探索行動に病み付きになります。
続く2回目、もう一度さっきと同じくらい離れてみます。ところが、1回目ほどはドキドキしません。そこで3回目は、1~2歩分距離を伸ばしてみます。『あぁ!ドキドキする~!』『あぁ、ホッとする…』。これをセットで繰り返し、より強い刺激を求めて徐々に家の中で距離を伸ばしながら、家具の向こう側や壁の向こう側まで行き、“それでもお母さんはいなくならない”『大丈夫』を確認して、心理的発達課題「対象恒常性」獲得の第一歩を歩み始めます。
実はこの時子どもには、お母さんから離れれば離れるほどにどうしてドキドキするのか、その相関は解っていません。回数を重ねるごとにドキドキしなくなり、周囲の状況を見渡せる余裕が生まれ、やがて興味・関心を引かれるものに引きずられて、なかなか戻ってこなくなったりします。ただし、『お母さんは、変わらずそこに居る』という安心と信頼があればこそ、そうできるということでもあります。これが、子どもが母(愛着対象)を内在化する(心の内に棲まわせる)ということです。私たちは生涯に渡って、心の内に誰かを棲まわせ生きる(頑張る)エネルギーとしますが、この時が人生における内在化プロセス獲得の最初になります。
こうして母親は子どもにとっての「安全基地」=ベース・キャンプとなり、探索行動(冒険)の拠点(母港)としての役割を果たしていくこととなるのです。