ハロウィンは、もともとはイギリス・ケルト地方で収穫の時期を終えた10月31日を1年の終わりとして、新年を迎える前の厄払いのような感じで続けられていたお祭りです。悪霊を寄せ付けないよう、怖い恰好をして町内を練り歩いていたんだそうです。スピルバーグの映画「E.T.」の大ヒットによって、日本でもハロウィンのお祭りが広く知られるようになり、いつしか日本の季節行事の一つにも成っているようですね。
2020年の年明けと共に始まったCOVID-19新型コロナウィルスによるパンデミックにより、当園でも昨年度末のお別れ遠足の中止、卒園式の縮小開催(卒園児のみ)、今年度の入園式の縮小・分割開催を余儀なくされ、小・中・高校・大学が休校・休学となる中、政府の緊急事態宣言と自治体の要請を受け、保護者に通園の自粛をお願いしました。
70%近い家庭が通園の自粛を受け入れ、自宅待機を選択されましたが、残る30%の家庭は諸事情により通園の継続を選択されました。コロナ禍にあって地域医療の最前線で闘う保護者もあれば、共働きの核家族で家族以外からの支援を得がたい保護者、幼児期の療育機会を失うことに不安を拭えない保護者と様々ですが、それぞれ納得の上で“自粛”or“継続”を選択いただいたように思います。
そのような中、自粛選択家庭への毎日の電話による在宅支援に加え、「オンライン設定保育」の可能性について職員で検討を進めました。
当初はYou-Tubeを活用した録画動画配信も考えましたが、大学・高校でオンライン会議アプリを用いた相互交渉型のリモート授業が始まっていることを知りました。早速自分のスマートフォンやタブレットにインストールし、試した上で導入を提案しました。肖像権やらプライバシーに関する乗り越えなければならない課題が幾つかあったものの、子ども達が喜んでくれる姿を想像しながら、ひとつひとつをクリアして5月12日(火)のリモート・オンライン設定保育の開始を迎えました。
短時間ではありましたが、“朝のお集まり”をベースに企画。保育歌に、手遊び指遊び、絵本読み、紙芝居、ペープサート、パネルシアター、エプロンシアター、腕人形などなど、保育士・児童指導員がそれぞれにエンターテイナー振りを発揮して、楽しい時間を作り上げました。
在宅の園児にしてみれば、母親のスマートフォンやタブレットの画面の中に、見慣れた先生の姿と聞き慣れた保育歌があって、その驚きは半ば衝撃に近いものであったろうと想像できます。しかもライブですから、画面中の小さな先生が自分の発言に呼応してくれます。もしかすると、先生が小さくなって端末の中に入っていると、信じてしまった子もいたかもしれません。画面越しに、笑いが止まらなくなっている園児を観ていて、ふと、そんな想像をしていました。
ところで、時折、園以外の場所(商業施設など)で職員に遭遇し、軽いパニックを引き起こす子があります。これらの子にとって、園の先生は園以外の場所にいてはならないのです。それは、“先生達が園に棲み着いていると信じ込んでいる…”からではなく、先生一人ひとりにそれぞれの家庭生活があることに想像が及ばないからに他なりません。これは、保育園の年少以下の子にも普通に見られる反応です。そんな子らに、画面の中のちっちゃな先生は、きっと可笑(おか)しくてしょうがなかったんでしょう。
さて、全ての通園自粛児がオンライン設定保育を利用した訳ではありませんでしたが、利用した園児は、利用しなかった園児に比べ、自粛明けの登園再開が比較的スムーズだったことを思います。正に、百聞は一見にしかず。電話在宅支援とライブ動画在宅支援の差を目の当たりにした気がしました。保育・療育の連続性という点では、圧倒的にライブ動画在宅支援の方が勝っていると思いました。
通常保育再開後の保護者連絡会の折に、オンライン設定保育を利用されたお母さん方に、それぞれ感想を述べていただきました。
皆さんが一様に声を揃えて言われたのは、オンラインが始まるまでの通園自粛1ヶ月間はメリハリがなくダラダラと過ごす生活だったが、始まって以後は、開始時刻に合わせて座って待てるようになるなど、生活のアクセントとなって、前後の生活が変わったということでした。
これが、お母さん方にとっての一番の実感だったようで、これ以外にもオンライン設定保育を受け続けたことでの子どもの成長、変化について報告がなされました。
結局、オンラインによる設定保育は7週間・延べ34回に渡って続きましたが、総括するに、この支援が十分であったかと言えば、不十分でした。不十分ではありながら、欠席や電話在宅支援に比べれば、数倍も数十倍も子ども一人ひとりに園との繋がりを実感させるものであったことを思います。
最初のころ、画面中の小さな先生に笑いの止まらなかった自閉症傾向を有する子も、回を重ねる毎に“繋がり”が理解されていき、「おはよー」「バイバーイ」の言葉が、単なる台詞から心のこもった“あいさつ”へと変わり、アイコンタクトを強めていきました。視線回避の特性を有する子に画面中の先生の視線は優しく感じられたのでしょうか。もしかすると、アシスタントを務めたしまじろうパペット(腕人形)による功績も大きかったのかもしれません。
ところで、通常保育再開の際に、子どもに『画面中の園と実際の園とが同一の場としてどれほど認識されるだろう…』と、少しばかり心配していたんですが、そんな心配は必要ありませんでした。新入園児を除き、イレギュラーを苦手とする在園継続児の殆どがパニックになることなくスムーズに新年度の園生活に馴染んでいけたことに、オンラインの効果を認めずにはいられませんでした。
手探りの場当たりではあったにせよ、コロナ禍というマイナスを、少しでもプラスにできたことは、実施して良かったと胸を撫で下ろしています。そして、子どもばかりでなくオンラインに関わった職員も、画面中の園児の笑顔に安心し、心癒やされる効果を被っていたことは言うまでもありませんでした。