ハロウィンは、もともとはイギリス・ケルト地方で収穫の時期を終えた10月31日を1年の終わりとして、新年を迎える前の厄払いのような感じで続けられていたお祭りです。悪霊を寄せ付けないよう、怖い恰好をして町内を練り歩いていたんだそうです。スピルバーグの映画「E.T.」の大ヒットによって、日本でもハロウィンのお祭りが広く知られるようになり、いつしか日本の季節行事の一つにも成っているようですね。
光の子学園では原則月1回のケース・カンファレンス(事例検討会議)を実施しています。11月は13日(土)午前中一杯を使って各クラス1ケースずつの検討を行いました。
カンファでは、これまでの支援方針に現在の発達状態を、クラス担任だけでなく、他クラス職員や個別療育学習担当者、発達検査担当者、児童発達支援管理責任者(以下、児発管)、相談支援専門員(以下、専門員)、更には当園の特色の一つ、調理主査の情報も織り交ぜながら、子ども一人ひとりの臨床像を立体的に浮かび上がらせる方法を採ります。
当園は、園児12人の1クラスを保育士・児童指導員3人で担任しています。三人寄れば文殊の知恵と言われるように、日々の保育・療育を3人で話し合いながら運営していますが、子どもとの距離が近か過ぎるが故に細部に目が行きがちで、発達の全体像が見えにくくなってしまうことが起こります。これは、対人援助業務に携わる者皆に共通する宿命でもあり、3人の担任は、自分たちの支援に間違いがないかに不安を抱きつつも日々の支援に追われがちになり易く、それらを解消する方策の一つにケース・カンファレンスがあるのです。
そもそも、3人で話し合いながら行っているのですから、そうそう間違った方向に向くことはありません。それでも、子どもの成長に伴って支援の方法を変更する時など、『本当にこのやり方で大丈夫だろうか…』という不安がチームには生じます。勿論、児発管や専門員のアドヴァイスを受けつつ日々の支援を行ってはいますが、カンファレンスメンバーそれぞれの視点を得ることによって、より広い視野でケースを客観的に見つめ直す機会を得ることができる、それがケース・カンファレンスの利点なのです。イメージとしては、洗濯槽の渦(うず)から出て、上から渦を眺める感じ…とでも言ったら良いでしょうか。
さて、先ほど当園の特色として、カンファレンスメンバーに調理主査が加わることを書きました。勿論、子ども一人ひとりの“食”に関する情報を共有することも目的の一つではありますが、共に発達の全体像を把握することを通して、発達がどのように食行動に反映しているのか、それらを踏まえての食事支援はどうあるべきか、また、これから行おうとする食事支援が今後発達全般にどう影響を及ぼすのかなどについて検討しています。
何故、これほどに“食”を重要視するのかというと、本能に働き掛ける“食”場面を、精神構造をより発展的に複雑化する発達促進の絶好の機会と捉えているためです。
これは、半世紀に及ぶ園としての療育実感に基づくもので、1993(平成5)年に実践研究論文「自閉傾向児の心を拓く偏食指導」で、第17回ほほえみ賞奨励賞を受賞しています。論文のタイトルにもあるように、この取り組みは偏食の改善が目的なのではなく、偏食指導の手法を通じて自閉傾向児の心を拓くことを目的とするものでした。結果、偏食も改善していくことになるのですが、その後、私が児童精神科医療分野へ移籍し研究は中断しました。しかし、当時確立した手法は職員を代替わりしながら現在まで受け継がれ、成果を上げ続けて来たのです。
ところで、当日カンファレンスに挙げられたのは、3件共が“自我(意識)の芽生え”に関連するケースでした。重度と診断される子どもたちで、直接支援職員にとって成長・変化の捉え難い子どもたちです。しかしながら、前年度の担任の話や年度当初の様子から現在までに、子どもの内面にどのような心理活動が展開されてきたのかが明らかになるにつれ、参加メンバーそれぞれの中に、対象児一人ひとりの臨床像が鮮明になる体験を伴うカンファとなりました。
入園当初、感情が未分化で「快」と「不快」の表出に終始していた子どもが、日々の保育・療育を通じて「快」から「好き」の感情を分化します。しかし、いつもいつも「好き」が得られる訳ではない現実に、「不快(ストレス)」を強めながら、そのことによって「怒り」や「嫌悪」の感情を分化させるプロセスを辿っていきます。更には、それらをベースに近未来を予測しての「不安」の感情を分化させ、「葛藤(あちらを立てれば、こちらが立たず)」を味わうことを通して、やがて自己と他者とが別々の意識を生きていることへの気付き=“自我(意識)の芽生え”を獲得することになるのです。そして自意識を強めるほどに対人意識も強めて、対象に自分の意思を『伝えたい』『分かって欲しい』意欲を高めながら、それまでの一方通行な発信とは異なって、相手の人格を意識しながらのお願いや期待を込めた発信に変わるなど、コミュニケーション(相互交渉)を活発化させます。
ところが、そこに自閉症特性(不安を自身で解消する術(すべ)を未獲得)が介在する場合に、精神発達は単純には進行せず、その前段で同じところを何度もループする印象があります。そういう意味においては、自閉症特性の固着化と“自我(意識)の芽生え”には、何らかの相関があろうという仮説も立てられますが、それについては今後の研究に委ねます。
ちなみに、自閉症傾向児が未獲得の“不安を自身で解消する術”とは、言い換えるなら“抱える葛藤に折り合いを付けて心に安心を据え置くこと”“自分で自分に『大丈夫』と言い聞かせられる力”と言えますが、これができるためには愛着対象を通じての“対象恒常性”の獲得が必須となります。(参照:光の子会Hp-blog積光成輝2020.6.29発達8『心の安全基地-いないいないばぁと探索期-』)
今回のケース・カンファレンスでは、様々な理由から親との間に“対象恒常性”を確立し得ないままに自身の感情の嵐(解消できない不安や恐怖)に苦しんでいた子どもが、園生活の中で児発管との間に“対象恒常性”を繋ごうとした通園バスの中でのプロセスが、時系列で克明に報告されました。恒常(変わることのない)対象(児発管)を自身の心の安全基地として内在化する(心の内に棲まわせる=精神的距離を縮める)ことによって物理的距離を解消し、『安心』を強化させていったのです。それは同時に、対象にくっついて(固体化して)いなくても、離れて(分離して)いても、『独力で安心状態を維持(感情統制/自己統制)できた』ことが、「得意」感情の分化を促進する出来事ともなりました。私たち大人もそうであるように、「得意」を得ることは心にゆとりを持つことであり、以後、子どもの表情にもゆとりが感じられるようになっていきました。この子は今、“自我(意識)の芽生え”の入り口に立っているのです。
以上に記した、私たちが学園職員として目の当たりにする、子どもの精神構造の質的な変革を伴う成長は、子ども一人ひとりのその後の人生を左右するほどの大きな変化であると言って過言ではありません。子どもが『自分を生きる』実感を伴って自身の成長を喜べるようになることを目指し、今後もカンファレンスを紡(つむ)いでいけたらと願っています。