ハロウィンは、もともとはイギリス・ケルト地方で収穫の時期を終えた10月31日を1年の終わりとして、新年を迎える前の厄払いのような感じで続けられていたお祭りです。悪霊を寄せ付けないよう、怖い恰好をして町内を練り歩いていたんだそうです。スピルバーグの映画「E.T.」の大ヒットによって、日本でもハロウィンのお祭りが広く知られるようになり、いつしか日本の季節行事の一つにも成っているようですね。
いつのまにか、光の子学園だけの伝統になってしまった「あゆみ」。
「あゆみ」とは、前期末(10月下旬)、後期末(2月下旬)それぞれに園児一人ひとりの成長記録をまとめた、保護者向けの通知表のことです。
まだワープロもパソコンもなかった時代、私も若い頃に用紙の紙面が足りなくて3㎜大の小さな文字でぎっしり書いたことを想い起こします。読み手である保護者からしてみれば、読みづらくて迷惑でしかなかったのかもしれませんが、園での子どもの成長を余すことなくお伝えしたくて、そんな風にしていました。
そこに記(しる)される内容は、身辺自立(食事、排尿・排便、衣服等の着脱)の技能習得に関すること、運動や身体の成長に関すること、認知学習能力の成長に関すること、言語や社会性の発達に関すること、対人技能やコミュニケーションの発達に関することなどです。
課題の達成目標とその支援の方法、取り組みの様子や成果を記述式で文章に起こしていきます。非常に面倒な作業ではありますが、光子学園ではこの「あゆみ」を半世紀に渡って大切にしてきました。
北九州市には児童発達支援センターが7箇所あり、うち2園は3才未満児のためのセンターですが、当園を含め5園が就学前の3~6歳児が通うセンターです。
四半世紀振りに北九州に戻ってきて、他の児童発達支援センターが「あゆみ」を10年近く前に廃止したことを耳にしました。半期に取り組んだプログラム課題を一覧にして、どの課題がどの程度達成できたか、懇談で説明しているということでした。
確かに、懇談の事前準備としては、随分と業務省力化が図られたのだろうと想像はできますが、そうした方法は当園にはそぐわない感じがしました。
当園でもポーテージプログラムを用いて、獲得した発達課題を一覧できるようにし、絶えずアセスメントを行ってはいます。それにも加えて「あゆみ」を書くのは、スタッフが自身の支援を振り返ると共に、園長が目を通して現場の理解度を推し量りつつ、必要に応じて研修を行う育成の機会としても捉えているからです。
スタッフが自身の支援を言語化・文章化することで、懇談時に保護者へ支援の内容を正しく表現するためのシミュレーションを得ることにもなるため、園長が必ず最後に確認して文書添削を行うようにしているのです。
保護者宛ての文書とは言えども、「あゆみ」は園から外へ出す公文書です。保護者が我が子を理解してもらおうと他の支援機関や学校に「あゆみ」の写しを提出することも想定され、そのような場合に、あまりに拙(つたな)い文面では名を記すスタッフが低い評価を受けかねません。スタッフには公文書としていかに表現すべきかを園長の添削に学んでもらいながら、空気中に散って消えてしまう声とは異なる、文書に表し残すことの重み(責任)を噛み締めて欲しいと考えています。
そして、「あゆみ」を書く上で重要なのは、正しい日本語で表現するのは勿論ですが、それ以上に目標に対してどのような支援を行い、どういった成長が得られたかを読み手に分かりやすく書くということです。つまり、私たちの専門性を明らかにしながらも、専門的内容をいかに平易な言葉に置き換えて伝えられるかが鍵になります。難しい言葉をそのままに伝えるだけなら誰にでもできます。しかし、それでは本当に伝えたいことが伝わりません。また、スタッフ自身が専門用語を正しく理解できていたとしても、用語の説明に終始していたんでは、一番伝えたいことが伝わりません。大切なのは、保護者とスタッフが子どもを正しく理解し、共同育児者として互いに喜びを「共感」し分かち合うことなのです。
子どもによって成長はまちまちです。軽度の子どもは発達の全領域に渡って半年間に多くの課題をパス(通過)しますが、重度の子どもがパスできる課題数は僅かです。しかしながら、発達支援プログラムには課題として項目化されていない部分で、後の人格形成に大きな影響を及ぼすこととなる心理構造的な変化(基礎工事)が行われている場合だってあります。残念なことに一般的な発達支援・療育プログラムには、この部分に関するメジャー(尺度)が充分とは言えません。それ故、スキル(技能)の習得にばかり目が向きやすく、着目すべき心や感情の発達に充分に光が当てられていないように思います。光の子学園では、その部分にもしっかり光を当てて、確かな目で子ども一人ひとりの成長を見つめていきたいと考えています。
「できる=◎」、「できない=×」だけでは測ることのできない、心のひだの凹凸や変化・成長を、保護者に言葉にしてお伝えすること。子どもがどんな努力をし、保護者の係わりがどれほど成長に寄与してきたか、スタッフ一人ひとりがしっかりとした客観性に立って正しく評価し、お伝えできる専門家で在りたいと願います。