ハロウィンは、もともとはイギリス・ケルト地方で収穫の時期を終えた10月31日を1年の終わりとして、新年を迎える前の厄払いのような感じで続けられていたお祭りです。悪霊を寄せ付けないよう、怖い恰好をして町内を練り歩いていたんだそうです。スピルバーグの映画「E.T.」の大ヒットによって、日本でもハロウィンのお祭りが広く知られるようになり、いつしか日本の季節行事の一つにも成っているようですね。
一昨年の父の日、ガスコンロの上で手回しする加熱式の焙煎器をプレゼントされました。しかし、コーヒーの生豆がどこに行けば売っているのかすら知らないド素人だったため、とりあえずネットで生豆を購入し、焙煎器に附属の手順書に従って初めての焙煎に取り掛かりました。
しかし、ここからが苦難の始まり。
A4表裏一枚の手順書には、行程がざっくりとしか書かれていなくて、「1ハゼ」とか「2ハゼ」とか用語の意味も解らないままに、兎に角焦げ茶色になるまで煎ったという初回でした。換気扇を廻していましたがダイニングテーブルの上で行ったために台所が結構煙って、何よりチャフと呼ばれる豆の薄皮があちこちに飛び散り、後の掃除が大変でした。なので、2回目以降は縁側でするようにしました。
YouTubeで[コーヒー]+[焙煎]と検索を掛けると結構な数の動画がヒットし、コロナ禍に手網や手鍋で自家焙煎を始めた人が多いことを知りました。また、焙煎の度合いで味が変わることや、産地や精製方法によっても味や香りに違いのあることなども分かりました。そういえば学生時代、「キリマンジャロは酸味が強い」だの「ブラジルは苦味が強い」だの受け売りの蘊蓄(うんちく)を垂れていたなぁ…なんてことを思い出しながら、それも焙煎でどうにでも変わるってことを改めて学び直しました。他にもコーヒー豆の挽(ひ)き方や淹(い)れ方で違うだったり、知れば知る程奥が深く、コーヒーの闇にどっぷりと浸かっていったように思います。
最初のうちは焙煎した豆をコーヒーメーカーで淹れて飲んでいましたが、ふと高校時代にアルコールランプ式のサイフォン(スコットランドで開発)で淹れていたことを思い出して、新たに電熱式のサイフォンを購入しました。サイフォンで淹れると味のボディーがしっかりコク深く感じられ、透過式(ドリップや一般的なコーヒーメーカー)ではなく浸漬(しんし)式に拘(こだわ)りたいなぁと、その後クレバードリッパー(台湾)、フレンチプレス(オランダ)、マキネッタ・エスプレッソ(イタリア)、水出し珈琲ポット(オランダ統治時代のインドネシア)と買い足しながら違いを味わってきました。中でも、香りはそれほど立ちませんが、水出し珈琲ポットで淹れたコーヒーの口当たりの良さは衝撃で『な~んだ…面倒なことしなくても麦茶パックと同じに手軽に美味しく飲めるじゃん!』と目からウロコでした。
生豆も、等級の低いコモディティーから等級の高いスペシャルティーまで、ブラジル(サントス)、コロンビア(スプレモ、エクセルソ、クレオパトラ)、エチオピア・モカ(ゲイシャ、イガルチェフェ、シャキッソ)、イエメン・モカ(マタリ)、インドネシア(マンデリン、トラジャ)、グアテマラ、ジャマイカ(ブルーマウンテン)、ルワンダ、タンザニア(キリマンジャロ、ンゴロンゴロ)、パナマ、パプアニューギニア、ケニア、コスタリカなどなど、中煎り(③ミュディアム、④ハイ)にしたり、中深煎り(⑤シティー、⑥フルシティー)にしたり、深煎り(⑦フレンチ、⑧イタリアン)にしたり、やり過ぎて炭になり無味無臭になったり、1年間それなりに悪戦苦闘してきました。
その後、還暦のお祝いで電熱風式の焙煎機を入手。焙煎時の温度管理が可能になって、ある程度狙った焙煎度合いに仕上げることが比較的容易になりました。
しかし、美味しく仕上げられるようになったのかと問われると、正直よく判りません。何故なら、どれもこれもそれぞれに美味しいからです。ただし、焙煎時間は比較的短い方が(概ね15分以内)香りが高いらしいことだけは判った気がします。ちなみに、味については低温長時間焙煎の方が美味しいと言う焙煎士もいて、最近は急速冷却をやめ、ゆっくり冷却を試しているところです。
YouTubeにはドリップの場合、中細挽きの豆10~15gにお湯(84~94℃)を最初に40cc程注いで、30秒蒸らす行程(炭酸ガスを抜く)を含んだトータル3~3分半に、1杯分(約160cc前後)を4~5回に分けて細く廻しながら注ぎ淹れると美味しく出来上がるとか、そうしないとエグ味や雑味が混じるだとか、フィルターペーパーをリンス(湯通し)した方が良いとか良くないとか、流派とまではいかないまでも、それぞれに一番美味しいとする流儀を紹介した動画が多数アップされています。いずれ茶道ならぬ珈琲道の家元が名乗りを上げる時代が来るのかもしれませんが、思うに、淹れ方による味の違いはほぼドングリの背比べな気がします。好みの珈琲系YouTuberのパフォーマンスに心理ハロー効果を受け、尊敬する対象が「おいしい」と言えば『これが美味しいってことなんだ…』と思い込んで心理同一化を愉しんでいるだけで、淹れ方による味にさほど違いはないんじゃないかと思います。
ということで、結論!
「嗜好品に絶対はない!」
a.豆の産地と精製方法(ナチュラル、ウォッシュド、その他)
b.焙煎度合(1~8段階)
c.挽き豆の粒度と1杯当たりの量(超極細挽き~極粗挽き/8g~20g)
d.湯温と1杯当たりの湯量(5℃~100℃/40cc~180cc)
e.どういった淹れ方が好きか(透過式or浸漬式)
以上、5項目の組み合わせに正解は無く、『みんな違って、みんないい』『好き』と感じたら、それがその人の正解。『これも好き』『あれも好き』『どれも好き』で全然OKだということです。
この他に、珈琲系YouTuberが「エグ味」とか「雑味」について、チャフの混入量によるとか湯温が高すぎるとかいろいろ口にしていますが、チャフだけを集めドリップして「意外に美味しい」と報告する者があったり、高温で淹れた方が「美味しい」と言う者もいたり、密かに『だよね!結局関係ないよね!』と思ったりしています。仮に雑味だのエグ味だのがあるとしても、それらを含めてコーヒーの美味しさだと捉えられるなら、それで良いと思っています。
ところで、超高級コーヒー:インドネシアのコピ・ルアク(生豆100g/6,000~10,000円)をご存じでしょうか?
コヒーチェリーしか食べないジャコウネコの糞から、排泄後2時間以内に取り出した豆を洗浄して天日に干し焙煎した豆のことです。どれほど美味しいのか飲んだことがないので「知らんけどー」ですが、取り扱っているお店ではコーヒー1杯につき6,000~8,000円で提供しているんだそうです。でも、正直そんな大金を払ってまで飲もうとは思いません。何故なら、普通のコーヒーで充分に美味しく愉しめているからです。
近年コーヒー豆のブランド化が進んでいて、実際に品質が向上している事実もあるんですが、それだけではなく、やたらと付加価値(情報やイメージなど)をつけて価格をつり上げる動きがあり、バリスタやコーヒーソムリエと称する人たちが盛んに宣伝をしています。いろいろな種類の豆を知れることは良いことですが、焙煎から余程の時間(1ヵ月以上)を経過しない限り廉価版のコモディティーコーヒーでも充分に美味しく頂けます。現地の生産者を正当に評価するフェアトレードを目的としたブランディングなら良いと思いますが、投機を目的とした生産者に何ら恩恵のないブランディングなら、僅かの味の違いに高い金を出す必要はないんだろうと、そんな風に思います。
北九州市小倉北区にある福岡県営中央公園管理棟の一画に、18種類の中から選んだ豆を焙煎してくれる「チャーリーおじさんのCaféこんぴら」というお店があります。
11月のとある日、ブラジルのピーベリー(コーヒーの木の枝先に実る小粒で甘みが強いとされる稀少豆)を選んで注文しました。一年半ほぼ毎週末に自家焙煎を続けてきた自分の味が、プロの味にどれほど近付いているのか知りたいと思ったからです。
お店で「本日お奨めのコーヒー」に舌鼓を打ちながら、待つこと30分。頼んだ200gが袋詰めにされ届けられました。
珍しい豆を注文したことで業界人と思われたらしく、80代と覚(おぼ)しきチャーリーおじさんが席まで来て「コーヒー関係のお仕事してる人?」と尋ねられました。趣味で自家焙煎していることを伝え、おじさんドリップの濃厚なブレンドコーヒーを、これまた濃厚なレアチーズケーキと共に美味しくいただきました。
持ち帰ったブラジルのピーベリー豆は夕食後、クレバードリッパーにアバカ素材(コーヒーの油分を通過)のペーパーフィルターを使用し、淹れて飲みました。焙煎度合いはフルシティーローストで酸味は無く、かといって苦過ぎない好みの焙煎で美味しくいただきました。そうして思ったことは、我が家の焙煎もプロに引けを取らないということです。高価な焙煎機が優る訳でも、安価な焙煎機が劣る訳でもないことが確かめられたように思いました。『どっちも旨い』それが私の出した正解です。
コーヒー豆にはこの他にも、焙煎したてが美味しいだとか、1~2週間寝かせた(エイジング)方が美味しいだとか、エスプレッソなら一ヵ月以上エイジングしないと美味しくないだとか、いろいろな考え方がありますが、『美味しけりゃいい』と、その日の気分で好きな淹れ方で飲んでいます。
コーヒーを淹れる度、今は亡き日本宣教師のマグヌス・ソルフス先生(NLM)が、「コーヒーは宣教師のガソリンですから!」と、口癖のように言われていたことを懐かしく想い起こします。